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shio

私の名はshio
社会人、
ペット:チワワ、スコティッシュ
趣味:事典集め
×お酒 ×タバコ ○甘い物
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お山のむこう 最終話
……ゃん、ちぃちゃん……ちぃちゃん…」
誰かにおこされて、ちぃは漸く目を覚ます。
何処にいるのだか、どうしてここにいるのだかも寝ぼけて容易には思い出せない。
そうだ、「兄ちゃんは?」
「奥にいるよ。ご馳走があるから、ちぃちゃんもおいで」
ちぃを起こしてくれたのは、黒い絽の着物を着た若い男だった。
ちぃは男の顔を凝視する。
母さんよりも、村のどの女よりも男の顔は美しい。
男は大きな沓脱石(くつぬぎいし)を指さして、にこりともせずに言う。
「さあ、おいで。でもその前に、まずはそこで草鞋をお脱ぎなさい」

松の木の襖、その奥へと通されると、
上座には、大きな体躯をした風格のある壮年の男が座っていた。
ちぃはまた顔をじっと見てしまっている。
目の前の男は美しいというのわけではないが、やはり人を惹きつける雰囲気がある。
何処の村にもいない、初めて見た変な顔。だが、不思議とちぃは怖くないし嫌いじゃない。
「ちぃちゃんは、本当にいい子だねぇ。さあ、たんとお上がり」
深く温かな壮年の男の声に、ちぃはすっかり緊張を解いた。
目にするのも口にするのも初めての物ばかり。
「美味しいかい?」
「うん」
ちぃは母さんにも食べさせてやりたいと思う。こんなご馳走だもの病気だって治るに違いない。
「本当に、いい子だねぇ…」
大きな男は目を細めると、改めて言った。
すると若い男の方が、ちぃの顔を覗き込む。
「ちぃちゃん、お腹いっぱいになったら、ひとつ手伝いを頼めるかな?」
「うん、いいよ」
ちぃは満面の笑みで答えた。


正太は風に舞い、舞い上がってゆくうちに、夜の闇へと紛れていた。
寒く、強風の吹き荒れる上空では、地上の灯りが愛しく見える。
このままでは空しくなってしまう。なんとか下に戻れないものか……。

一方ちぃは薪運びを手伝っていた。
先程は眠った振りをして見ていなかった篝火に、やはり沢山の蛾が集まってきている。
「怖い…」
燃えてゆく蛾を、落ちてもがきまわる蛾を見て、ちぃの足はすっか竦み上がっていた。
後ろから両手に薪を抱えて来た若い男は、ちぃのすぐ側まで来てから薪を降ろして言う。
「ちぃちゃんは、蛾がどうして蛾になるのか知っているかい?」
「寂しく死んだ人がなるの…」
「うん、合っていると言いたい所だが、少し違っている。
寂しく死ぬのではなくて、心の寂しい人の魂が蛾に入ってゆくのだよ。
神様や仏様を大事に思えない人のことだよ…」

ちぃが地蔵様に手を合わせていた間、正太は祈るどころか軽んじて一瞥しただけであった。

絽の着物をしゅっと音立て、男が空の闇へと手を差し伸べる。
「ほら、御覧!」
声は闇を切り裂いた。
篝火の夕日のように赤い炎が、白皙の男の笑顔を照らし出す。
何をそんなに嬉しいのだろう…火の粉が夢のように、闇を踊る。
そうして差し伸べている手の先に、
闇の彼方から一匹の蛾が、火の粉に鱗粉を混ぜてゆくように、舞い降りてくる。
「あ、兄ちゃんっ…」
「……ふむ、ちぃちゃんには分かるのだね……ならばこれから先はお館様の御子におなり」
ちぃが運んだ薪が焼(く)べられる。
すると火の粉が空一面に広がり、若い男もちぃも蛾も、すべてが橙色に染まっていった。
蛾は巻き起こる風に翻弄され、一度舞い上がってゆくかに見えたが、
直ぐに、死出の舞を舞うのだった。


翌週、行方不明になってい兄妹の、兄の遺体が見つかった。
お山の頂上の、中でも一番高い松の老木の天辺に、引っかかっていたそうである。
その後村では、松の木の天辺に烏が立つのを見ると、
誰かの死出の旅を知らせているのだと言うようになった。
妹の亡骸は、八方探したが、ついに最後まで見つからなかった。<終>




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お山のむこう(全8話) | 21:26:21 | Trackback(0) | Comments(2)
お山のむこう 第七話
おぼろげに聞こえる、節を付けて繰り返す言葉。
その幾度目かに、正太の耳の中に誰かの吐息が入ってきた。
耳のすぐ近くで囁くから、今度こそはっきりと聞き取れる。
「白糸滝のおミツさん、朝を待たずにお亡くなりぃ~…白糸滝のおミツさん、朝を……」
その言葉を耳にするなり、正太の頭には血が上って、
声を限りに叫ぶ。
「すいませーん…誰かーっ…誰かいませんかぁーっ…」
声には自然怒気がこもる。
自分がまだ子供であることも忘れ、
姿の見えない相手を、とっつかまえてぶん殴ってやろうという気になる。
草鞋を脱ぐのも忘れて式台の上に片足を載せると、
背中のちぃが身動いだ。
「んー…」
ちいは、いつのまにか本当に眠っていたのだ。
今度は振り落とさないよう気をつけても、
やはり正太が動くと、ちぃはむずがる。
正太は仕方なくちぃを背中からそっと降ろすと、
式台に寝かせてやった。
するとまた
「白糸滝のおミツさん、朝を待たずにお亡くなり~…」
不気味に笑い、自分をからかう姿無き声に、正太は向きになってゆく。
「誰だっ、出てこい! 人をからかって何が楽しいんだっ」
「おいでよ、おいで……正太よ、おいで…」
相手が何故自分の事を知っているのかなどと、考える余裕もない。
声のする方へ正太は走り出す。
廊下の角を曲がり、そしてまた真っ直ぐゆく。
すると行き止まり、目前で松の大木の絵が描かれた襖が、
すうっと開いてゆく。

なかは闇。
屋内とは思えぬ冷気に、正太はぶるっと身震いをする。
それでも怯まず声を追いかけるが、
その勇気が命取りになる。
「正太、おいで」
不思議と怖くはない。温かな威厳のある声だ。
正太が一歩前へ出ると、一陣の風が俄に起こり、正太の身体は宙に浮く。
風にのり、舞って、舞い上がって、昇ってゆく。




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お山のむこう(全8話) | 22:40:11 | Trackback(0) | Comments(0)
お山のむこう 第六話
篝火(かがりび)に蛾(ガ)が集まってきていた。
炎に身を焼かれ、
めらめらと燃えては落ち、
そしてまた次の蛾が競うようにして寄ってくる。

正太はそれを見ながら、母さんの言葉を思い出した。
『正ちゃん、気持ち悪くても蛾は殺しちゃいけないよ。
蛾はね、寂しく死んだ人の魂が宿っているの』

山の蛾は大きな蛾だ。ゆうに正太の顔ぐらいの大きさはある。
羽の模様が目のようにも見え、ますます母さんの話と重なった。
玄関へと歩を進め、
篝火の前に差し掛かる度身震いがして、
背中に背負った小さなちぃだけが、大事な大事なお守りだった。

見ないよう、俯(うつむ)きながら足早に歩く。
なのに1匹の燃えかけた蛾が足下へ落ちてきて、行く手を塞いだ。
思わず足を引くと、草履の先っぽでくるくる円を描きながらもがいている。
「助けてくれ…」
正太にはそう聞こえた気がした。
ついに我慢していたものが爆発しそうになり、
正太はその場から駆け出してしまった。


「すいませーん。誰かいませんか? 道を教えてください」
暗く湿っただだっ広い玄関は、蛾がいないだけ増しだけど、
一歩中へと入り込むと、
緑の匂いと何かが黴(か)びたような匂いと、
年寄りの体臭が混ざったような匂いがして、
やはり長居はしたくない。
「誰かいませんかぁー…」
ずっと大声を張り上げ続けた。
一向に返事は返ってこないが、人の気配は確かにするのだ。

暫くして、蚊の鳴くような声がした。
最初は気のせいかとも思ったが、
耳を澄ますと、何かを必死になって話し合っているようにも聞こえる。
耳の近くだが、遠く小さく聞こえる声だ。

(気のせいだ、気のせいだ…)
正太はそればかりを呪文のようにくりかえす。
けれど声は、段々意味を持ってくる。
決して聞いてはいけない言葉だ。




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お山のむこう(全8話) | 20:58:36 | Trackback(0) | Comments(0)
お山のむこう 第五話
「ちぃ、これからちぃは、右だけを見とけ。箸もつ方だぞ。
それで道があったら、兄ちゃんに言うんだ。いいな」
「うん」
ちぃが右を、正太が左を確認しながら歩けば、
道に迷ってしまったとしても、
今度こそ別の道へ行けるはずだ。
そうして二人がまた暫く歩いてゆくと
一件の家が見えてきた。
正太の村にはないような、とても立派なお屋敷だ。

塀の内側からは、ゆらゆらとした篝火の光が、
まるで生き物のように闇に泳ぎだしていた。

正太は躊躇った。
こんななりをして入っていったら、
物乞いと間違われて門前払いを喰らうかもしれない。
恥ずかしい思いはしたくないし、怖い思いもしたくない、
結局は行くしかないのだけれど……。
眠ってしまって、声を出すことも出来ない母さんの代わり。
正太は、ちぃを負ぶって後ろで組んでいた手に、力を込めた。
「ちぃ。
兄ちゃんたちは、もしかするとこのお家の人に怒られるかも知れない。
だからちぃは今から寝たふりしとけ、いいな」
「怒られるの?」
「ん、もしかしたらだ。夜中だからな」
「ちぃたち悪い人じゃないのに?」
「だからもしかしたらだって。
ちぃは兄ちゃんが良いっていうまで目ぇつぶっとけ」
「分かった…」

左に回り込んで家の正面までいくと、大きな三門があった。
正太はちぃが目をつぶったことを確かめる。
よいしょと反動をつけ、ちぃを負ぶうと、
右側の僅かに開いていた戸口から屋敷に入っていった。




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お山のむこう(全8話) | 20:15:13 | Trackback(0) | Comments(2)
お山のむこう 第四話
歩いても歩いても頂上は見えない。
ちぃを負ぶったり、おろしたり。
正太は兄として、
弱音は吐けないが、
さすがに疲れが出てきていた。
「兄ちゃん…」
「もう少しだから…」
「兄ちゃんっ!」
「もう少しだから黙ってろ!」
正太はだんだん腹立たしくなってきた。
自分ひとりだったら、もっと楽なのに。
とっくにお山も越えていたかも知れない。
「でも…兄ちゃん…ちぃたちさっきもここ通ったよ…」
「同じように見えてるだけだよ、ちゃんと歩いてるから」
「でも、そこのお地蔵さま…さっきもみたもん」
正太の足がぴたりと止まった。

雲間からはお月様が顔を見え隠れさせていた。
月明かりに、今はちぃの顔がよく見える。
背中から降ろしてやると、
ちぃは、お地蔵様の前で行儀良く手を合わせた。
「お地蔵さまっていうのは似たようなのが沢山あるんだよ」
「ううん、このお地蔵さまだったもん。さっきと同じ衣だもん」
「………」
正太はにわかに不安になってゆく。
そう大きな山でもないのに、なかなか頂上に辿り着かないのも
おかしな話だとは思っていたのだ。
それにしたって、やっぱりおかしい。
ここまでくるのに
脇道らしい道はなかったはずなのに…。




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お山のむこう(全8話) | 19:53:55 | Trackback(0) | Comments(0)
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