投稿日:2008-01-18 Fri
「ちぃ、これからちぃは、右だけを見とけ。箸もつ方だぞ。それで道があったら、兄ちゃんに言うんだ。いいな」
「うん」
ちぃが右を、正太が左を確認しながら歩けば、
道に迷ってしまったとしても、
今度こそ別の道へ行けるはずだ。
そうして二人がまた暫く歩いてゆくと
一件の家が見えてきた。
正太の村にはないような、とても立派なお屋敷だ。
塀の内側からは、ゆらゆらとした篝火の光が、
まるで生き物のように闇に泳ぎだしていた。
正太は躊躇った。
こんななりをして入っていったら、
物乞いと間違われて門前払いを喰らうかもしれない。
恥ずかしい思いはしたくないし、怖い思いもしたくない、
結局は行くしかないのだけれど……。
眠ってしまって、声を出すことも出来ない母さんの代わり。
正太は、ちぃを負ぶって後ろで組んでいた手に、力を込めた。
「ちぃ。
兄ちゃんたちは、もしかするとこのお家の人に怒られるかも知れない。
だからちぃは今から寝たふりしとけ、いいな」
「怒られるの?」
「ん、もしかしたらだ。夜中だからな」
「ちぃたち悪い人じゃないのに?」
「だからもしかしたらだって。
ちぃは兄ちゃんが良いっていうまで目ぇつぶっとけ」
「分かった…」
左に回り込んで家の正面までいくと、大きな三門があった。
正太はちぃが目をつぶったことを確かめる。
よいしょと反動をつけ、ちぃを負ぶうと、
右側の僅かに開いていた戸口から屋敷に入っていった。


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