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お山のむこう 第七話
おぼろげに聞こえる、節を付けて繰り返す言葉。
その幾度目かに、正太の耳の中に誰かの吐息が入ってきた。
耳のすぐ近くで囁くから、今度こそはっきりと聞き取れる。
「白糸滝のおミツさん、朝を待たずにお亡くなりぃ〜…白糸滝のおミツさん、朝を……」
その言葉を耳にするなり、正太の頭には血が上って、
声を限りに叫ぶ。
「すいませーん…誰かーっ…誰かいませんかぁーっ…」
声には自然怒気がこもる。
自分がまだ子供であることも忘れ、
姿の見えない相手を、とっつかまえてぶん殴ってやろうという気になる。
草鞋を脱ぐのも忘れて式台の上に片足を載せると、
背中のちぃが身動いだ。
「んー…」
ちいは、いつのまにか本当に眠っていたのだ。
今度は振り落とさないよう気をつけても、
やはり正太が動くと、ちぃはむずがる。
正太は仕方なくちぃを背中からそっと降ろすと、
式台に寝かせてやった。
するとまた
「白糸滝のおミツさん、朝を待たずにお亡くなり〜…」
不気味に笑い、自分をからかう姿無き声に、正太は向きになってゆく。
「誰だっ、出てこい! 人をからかって何が楽しいんだっ」
「おいでよ、おいで……正太よ、おいで…」
相手が何故自分の事を知っているのかなどと、考える余裕もない。
声のする方へ正太は走り出す。
廊下の角を曲がり、そしてまた真っ直ぐゆく。
すると行き止まり、目前で松の大木の絵が描かれた襖が、
すうっと開いてゆく。

なかは闇。
屋内とは思えぬ冷気に、正太はぶるっと身震いをする。
それでも怯まず声を追いかけるが、
その勇気が命取りになる。
「正太、おいで」
不思議と怖くはない。温かな威厳のある声だ。
正太が一歩前へ出ると、一陣の風が俄に起こり、正太の身体は宙に浮く。
風にのり、舞って、舞い上がって、昇ってゆく。




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お山のむこう(全8話) | 22:40:11 | Trackback(0) | Comments(0)
私の実家には不思議なことが度々起こります。
今日はその中のひとつ、
トイレから聞こえる気味の悪い音についてお話ししようと思います。

時折なんですが、トイレからおかしな音がする。
ある時はコンコンコン…
調度ドアをノックしたような音。
またコツッと1回だけ鳴る時もあれば、要は決まりがなく千差万別。
その時は、
調度家族の者が使用しておりました。
私は廊下を挟んだリビングで、読書をしていたと記憶しています。

いきなりバリバリバリ…ガリガリガリ…
まるで壁板を剥いでいるような音と、爪を立てているような音が
トイレから聞こえてきました。
そしてその直後、今度は二階の廊下から階段へと
思い切り乱暴な足音がドスドスドスと響いた。

何事かと廊下に出ますと、
トイレに入っていた者も同じように怯えた顔をして飛び出してきた。
泥棒かとも思い、家中をチェックしたりもしましたが、
結局この日は、誰にも音の正体はわからなかった。

その前の日には
家の至る所で、甘い匂いが出現していました。
何処となく匂うのではなくて、
「ここ!」と言えるように、匂いは1箇所に固まっている感じです。

もともとおかしな事が起こる家でしたが、
この時ばかりは音が音だけに嫌な感じがしました。

その真相が明らかになったのは、
2日後に掛かってきた1本の電話に拠って。
電話の相手は不動産屋で、
私の両親が営んでいるアパートの住人が
病院で急死したとの事。

その方が倒れられた時、
私たち家族は全員出払っており、
連絡が取れなかったらしい。

亡くなった方は、元芸人の独り住まいの男性。
ご病気で足が不自由になり、
松葉杖をついておられた。
母はよく食事を余計に作っては、
持っていってあげたりしていたのですが、
友人らしい友人もおらず
寂しい余生を送られていたようです。

バリバリと音がした時が、その方の死亡時刻です。

あの音は何だったのでしょう。そしてあの香りは…?
その後も時折音がすることはありますが、
やはり決まって、知人や親戚の者が亡くなる時なのです。




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不思議な出来事/実話(short-short) | 08:50:00 | Trackback(0) | Comments(0)