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shio

私の名はshio
社会人、
ペット:チワワ、スコティッシュ
趣味:事典集め
×お酒 ×タバコ ○甘い物
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文化祭 8
ぐるぐるぐるぐる、いろんなことを考える。
イジメられていた時のこと、さっきの女子たちの笑顔、
鏡でいつも見ている自分の容姿、 モテまくっている井本、
男らしいとか女らしいとか…僕らしいとか……。
考えてゆくうちに疲れてきて、そのうちどちらも話さなくなって、
ふたりで、ただ空をぼんやりと眺めていた。

「あ、ねぇあの雲…」
言ってから、しまったと思う。 のんきに雲なんて眺めている場合じゃないのに。
「ん?」
けれど怒るかなと思われた井本は、こんな時でも僕のくだらない話に耳を傾けてくれる。
「あの……ほら、手前のぽこっぽこって2つ並んでる雲のすぐ後ろに、ちょっと細長い雲があるでしょ、
あそこだけ空の青と茶色がかったところの混じり具合が綺麗だなーって………あ、 ゴメン……
やっぱり変だね、全然どうでも良いことだから気にしないで……うん……」
「ん、何処?」
井本はどう思ったのか、くすくす笑いながら聞いてくる。
「………あれ、あの右のほうの…」
「あー…あれか」
「なんかパステル画っぽくて、見てると和まない?」
「あー…うん…かもな……」
「あ!もしかして……今イタチだから見えないんじゃないの?」
井本の反応があまりに鈍いので、僕はちょっと不安になる。
「いや、見えてるよ。どうなってんのか解んねぇけど、ちゃんと見えてる。
じゃなくってさ、俺……雲とか、星とかって、言われればキレイだなって思うけど、自分1人だったら、全然気にも留めないんだよね。
だから田中みたいな奴って、面白くってさ。普段どんなこと考えてるのかなって、凄く興味ある。
前に廊下に貼られてた読書感想の水彩画だって、ホント凄かった!
誰もあんなの思いつかねーって、他の奴とも言ってたんだ。田中は感性が、ネ申なんだよな」
「そんなことないよ…」
「いや、あるって。お前はぜんぶが個性的なんだよ。」
個性的…?
「人と比べる必要もないと思う。お前、結構人に合わせようとして、ひとりで疲れてることない?」
「うっ…ある…」
「そんで人と比べて勝手に落ち込んでるだろ。あれ、全っ然意味ねーから。
人に合わせた方がいいキャラの奴もいるけど、お前の場合は合わせる必要ねーよ。
てゆーか、お前元々思いやりがある方だから、それ以上気を使っちゃうと、自分も周りも疲れる。
だからさ、何てゆーかな…クラスのマスコットかアイドルだと思って、ニコニコしてれば良いんだよ。
お前の凄さはもうみんなも認めてるんだしさ。
で、お前を虐めてるごく少数の奴らな、あれは妬みだよ。あいつら地味なくせに目立ちたがってるから。
あんなのは何処にでもいるんだから、放っておけばいいって。
もっとみんなと打ち解ければ、これからは俺だけじゃなくてみんなが味方なんだから」
「でも…」
「何?………はーん…恥ずかしいんだな、お前……照れてるだろ…」
「………」
そう僕、さっきから平常心を心懸けようとしているのに、にまにましちゃう。
ほっとした。
井本には悪いけど、今日っていう日に感謝したい。
「さてと、じゃあ帰るか」
「帰るって、何処に」
「そーだな、今夜は取り敢えず田中の家にでも世話になるかな」





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文化祭 | 21:16:21 | Trackback(0) | Comments(0)
文化祭 7
「嬉しくなかった?」
「……」
嬉しい?
そう考えただけで、頭の中は軽く混乱する。
イジメかイジメじゃないのか、
裏切られた時のダメージを考えると、怖くってやっぱり考えられない。
ぐずぐずしていると、井本は更に続けた。
「あーゆー時、俺だったらすっげー嬉しいけど……。
単純に考えてみろよ、あの時ちょっとでも嬉しくなかった?」

僕の胸の中には、一つのわだかまりがあった。
今もし僕がここで喜んでしまったら、身の程知らずと思われるのじゃないか、という恐れ。


川の音が、急速に僕の耳元に迫ってきた。
ちゃかぽこぼごここ…ちゃろちゃかぼごここ……。
水音は好きだ。
心が洗われるようで、聴いているうちに素直になってゆく。

「全員とは言ってやれないけどさ。
大半の奴は、前からみんなお前のことをイジメてるつもりはないんだよなぁ。
単純に、田中はカワイイって思ってるんだ。
カワイイから、からかいたくなるんだよ」
「……」
井本は説き伏せようとでもいうのか、更に言葉を慎重に選んでゆく。
「……でも、田中はそれが褒められてるとか可愛がられてるとは思えないん…だよな?!」
「うん…」
「それってさ、もしかして自分にコンプレックスもってる…から?!
何だかさ…いっつも攻撃されてるって感じてないか?」
「だって前イジメられたことあったし、
だいたい僕がカワイイ訳ないんだから…
そしたらやっぱり悪意なのかなって、そしたら…」
「だからさ、悪意を持った奴が一人二人いたとしてもだよ、
俺が見てる限りだと大半の奴らに、悪意はないの。
カワイイからからかってるんだって。
あー悔しいなぁ…
他の奴だったら喜んだり、喜ばないにしてもサラッとかわす所で
お前勝手に傷ついて、そんで周りを威嚇するじゃん。
かわいーねー…って褒めてくれてる奴に、田中はイジメないでって威嚇してる」
「………」

黙っていると、今までの悔しい想いが膨れあがってくる。
井本にまで食ってかかりそうになり、僕は必死に堪えていた。
「もっと自信を持てって。それでみんなといっしょになって笑ってれば良いんだって」
「………」
我慢しているところへ、どんどんどんどん入ってくる井本の言葉。
井本はイイ奴だ。
だけど僕の心情も、もう少し汲んで欲しいと思う。
一度だってイジメられたら、怖いんだよ。
記憶をすべて消し去って、みんなを無条件で受け入れられる程僕の心は強くない。
それを簡単に言ってくれる。

つづく




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文化祭 | 22:45:25 | Trackback(0) | Comments(6)
文化祭 6
校舎の外へ飛び出し、僕はイタチを抱え川の土手までやってきた。
ここなら姿勢を低くしていれば死角になるし、人も滅多に通らない。
僕はイタチの剥製を傍らに置くと、空を見上げて寝っ転がった。
「井本…何処か痛い所ない?」
「ん、ないよ」
それにしても大変なことになってしまった。
どうやったら井本を元に戻せるのか、僕には見当もつかない。
だいたい今日これからどうしよう……。
僕は剥製のイタチをそっと見た。
埃をかぶって古ぼけたイタチ。
当然だが生前の精悍さはそこになく、前脚を片方だけ上げたポーズが、妙な味を出していた。
『俺がいなくなったら、誰がお前をかばうんだよ…』
井本はあんな風に言っていたけど、寧ろ今の井本を守ってやれるの僕だけだろう。
本当にどうしよう……。

聞こえてくるのは川の水音、そして時折遠くの方で響く乾いた車の音だけ。
独りになりたい時によく来ているこの場所は、今日も僕を優しく迎えた。
考えたらみたら井本を連れてきたのだって初めてだった。
だってココは僕だけの涙置き場だったから。

「田中ぁ、さっき女子にカワイイって言われたの、あれイジメじゃないって解ったろ?」
井本が、こんな時に自分のことではなく僕のことを言い出したのには驚いた。
しかもいつになく真剣な声だったので、
僕は先程の光景を真剣に、落ち着いて思い出してみることにした。
あそこにいたのは、たしか同じ学年の女子だった。
僕が振り返った時の彼女たちの表情やしぐさはどうだったろうか。
……意地悪そうには見えなかったかも…。
……どちらかというと、いつも井本に向けられているリアクションに近かった?
いやいや、そんなことあるはずがない!

けれど思い出してゆくうちに、またふわふわした気分が僕を包む。





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文化祭 | 22:22:22 | Trackback(0) | Comments(0)
文化祭 5
酷いよ井本…僕は忘れたかったんだ。
そりゃあ頭の何処かでは解ってたよ。
今だってイジメにあいそうな気配があるってことぐらいさ。
だって女子がいまだに僕のこと見て、クスクス笑う時があるもん。
春紀じゃなくって、ハルミちゃんて呼ばれるのだって結局治らない。
……悲しくなってきた。
やたらめったら理不尽に悲しい。
みんな僕のことをオカマっていうけど、
僕はオカマじゃない。
女の子のことだって普通に好きだ。
なのに何だってこんな惨めったらしい気持ちにさせられなきゃならないんだ。
キレたくなったって、体格が女子よりも細いから我慢してるし…。

するとイタチが、
「田中……悲しんでいる所悪いんだが、その前に俺を助けろ!」
「………」
するとクマも、
「田中、もう気が済んだろ……そんな話をするってこと自体、間違いなく、からかわれてるんだって。
早く教室戻って、スピーカー仕込んだ犯人を探した方が良くないか?」
僕は今解った、どちらが本物の井本なのかが。

この横柄な物言い…! そう、それが井本だ。
この勝手な態度… そう、それこそが井本なんだ。
理屈じゃない、もうこの際常識なんて関係ないだろう。
僕はなるべく鬼のような顔付きをしてから振り返った。

「………クマッ…お前、中身はいったい誰なんだよ?」
「田中…? お前とうとう頭にキたか…?」
「誰だって聞いてるんだッ、答えろッ!」
「何言ってるんだよ…」
「お前は井本じゃない! 井本はこっちだ!」
僕は力いっぱい、イタチの剥製を指さす。
するとクマは慌てだした。
「………待ってろ、今誰か呼んでくるから。いいか、そこを動くなよ…」

クマを見送っていると、井本はイタチのくせに酷く真面目な声音で話し出す。
僕は咄嗟に笑いそうになったが、自体は意外と深刻。
だから笑いは堪えなくてはならない。
「おい、田中…このままだとヤバイぞ」
「うん……どうしよう……」
「まったくよォ…せめてイタチに入るのがお前の方だったら楽だったのにな…」
「え、それどういう意味?!」
「いや、まあ…聞き流せ。それよりも、とにかく俺を連れて今すぐここから逃げろ」
「逃げるって、何処へ?」
「そんなの判んねーよ」
「困るよぉ…判んなきゃ何処へも行けないじゃない…」
「おい、お姉言葉になってきたぞ」
「!……知らないよぉ~もぉ~…」

僕は兎の頭を被って、イタチを抱きかかえた。
頭を被った方が、文化祭らしくてみんなに不審がられないだろうとの、
井本のアドバイスだ。
廊下を走る。
「何あれ…兎がイタチ持ってる」
皆が僕を笑っている…。
「ほら、手を振れ!」
「え?」
「良いから手を振ってみろって」
僕は廊下にいた女子たちに手を振った。すると
ピンク色した歓声が上がった。
キャーとかカワイイ~とか言った類のだ。
見えないだろうけど、僕は走りながら兎の中で思いっきり赤面している。
「かわいい」という言葉を聞いて、
怒りじゃなくて、生まれて初めて喜んでいる自分が不思議だった。
いつもなら、からかわれているとしか感じない言葉が
どうして今は褒め言葉に聞こえるのだろう。
今僕は田中じゃなくって兎だからだろうか?
「気持ち良いだろ」
「う、うん…」
走りながら、というか逃げながら、
自体はあまり悦ばしい状況ではないけれど、
そんな時に、僕は素敵な思い出も作れてしまったようだ。

つづく




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文化祭 | 14:34:44 | Trackback(0) | Comments(13)
文化祭 4
僕が向き直ると、井本は身体のコリを解すようにしながら、立ち上がった。
「大丈夫? 井本って寝起き悪かったんだな」
「ん…ああ」
(え…?)
僕はクマこそが井本でないことを知った。
「誰?」
するとクマは
「何言ってんだよ田中、今度はお前が寝ぼけたか?」
「ふざけるなよ、お前…誰?」
「井本だよ…」
「なら、頭取ってみろよ」
「ああ」
クマは頭を外した。
クマの言うように、やはり間違いなく井本だった。井本の顔だ。
「ほら時間ないんだろ、行くぞ」
井本が話す。
けれど…
「井本じゃない!」
「そうだよ、だから俺はこっちだって」
(え?)
忘れていた……剥製のイタチのことを。
「井本…?」
「だからさっきから俺だって言ってるじゃん」
「え…こっち(井本の顔をした方)が井本じゃなくって、こっち(イタチの剥製)が井本?」
「そーだよ」
イタチの剥製は言う。
「じゃあ俺は誰だっていうんだよ」
井本の顔をしたクマがいう。
「井本…?」
「ちがーう、俺はこっちッ」
イタチの剥製が叫ぶ。
僕は正直どちらもが気持ち悪い。
どちらとも一緒にいたくない。
だからつい言ってしまった。
「どっちもいやだ…」
するとふたりほぼ同時に叫んだ。
「なに馬鹿言ってるんだよ」
「馬鹿ってなんだよ…クマの着ぐるみとイタチの剥製って…気持ち悪すぎだろ…」
「おい、おれは着ぐるみじゃないぞ、頭外してるだろ」
「だけど…着ぐるみきてる間におかしくなったんじゃないか…」
僕はもう半ベソ気味だ。
「ほ~ら判ってるじゃないか。だから途中から俺じゃなくなってるんだって」
「でも…、だったら……なんで、どうして?」
「知るかよ…。俺だって教えて欲しいよ。寝てたら、いつの間にかこうなってたんだ」
「田中、早く行くぞ…そんな誰かが仕掛けたイタチの剥製と話してたら、お前アブナイ奴と間違われるぞ」
「やっぱり仕掛け?」
「当たり前だろ…」
「ま、待て田中…じゃあ、じゃあ今の井本見て変だと思ったのは何故なんだ…よく考えろ、
違うって思ってんだろ?」
「そうだった…」
思わず洗脳されそうになった。アブナイアブナイ…。
「剥製は仕掛けなんだって。だってそうだろ、そう考えた方が常識的ってもんじゃないのか?」
クマが言う。
「うん…でも……」
僕は疑いの目でクマを見つつ、やはりイタチも気になる。
「そんなに疑うんなら、只の剥製なんだから分解でも何でもしてみろよ」
クマが言うまでもなく、僕は剥製の中身に興味があった。
否、綿とか何とかの中身じゃなく……。
僕がイタチを持ち上げると
「や、止めろよ…田中ッ早まるな…俺がどうなっても…お前構わないのか…」
「だって…剥製だもん……」
「剥製でも何でも俺が入ってるっつってんだろ」
「だって…」
「いいか、良く聞け田中……もしかお前が剥製を解体してだな、その結果俺が消滅したら
これからお前は誰に庇って貰うんだ?
イジメが無くなったとは思うなよ……今だって俺が目を光らせているから…」
「…………解ってるよ………そんなこと、言われなくたって解ってるよっ」


つづく




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文化祭 | 23:39:11 | Trackback(0) | Comments(4)
文化祭 3
また静寂がやってきた。
パンも食べてしまったし、ジュースも飲んでしまった。
井本が寝てしまうと、15分は結構長い。
僕もかなり眠かったのだが、ふたりで熟睡してしまったら
起きられなくなりそうなので我慢することにした。
仕方がないので暇つぶしに、飾ってある物を順に見て回る。
(すげー…この年って男バス強かったんだな……)
ぎゅうぎゅうにひとっ固まりに飾られた楯やトロフィーが、
皆同じ年度なのに感心した。
「…田中っ、田中ってば」
僕は井本を振り返った。
「何? 井本…」
「俺、これどうなってんの?」
「何が?」
「だからなんで俺こんな中に入っちゃってんだよ」
「なんでって……井本、もしかして寝ぼけてる? 僕ら今日は仮装喫茶をやってるんだろ」
「そうじゃないよ、そっちじゃない。こっちだって…こっち…」
「はぁ?」
「俺が入ってるのは熊じゃない」
「何言ってんだよクマだよ。あー…もうこんなに寝起きが悪いなんて知らなかったよ。
ほら…起きろよ井本…何寝ぼけてるんだよ…」
僕はクマの頭の部分を外そうとした。
だが何処かが引っかかってるのか、うまく外してやれない。
「だ・か・らー…そっちじゃないのッ」
「え…」
声が反対方向から聞こえる。
クマを被った井本ではなく、今僕の背中の方から…。
だが振り返るとあるのは、イタチらしき剥製。
「そう、今お前が見てるのがオ・レ」
「ええっ?」
「なーどうなってんの?」
「どうなってるって…こっちこそ、この中どうなってるの? いつ仕掛けたんだよ?」
「だから仕掛けじゃないって……あッ…乱暴に扱うなよ。壊れたらどうするんだ」
「大丈夫、でも凄いなー…こんな小さな中に入るようなスピーカーって、売ってるんだ…」
「違うスピーカーじゃない、俺が入ってるの」
「いい加減にしなよ。それより僕らもそろそろ教室戻らないと」
「だから、このままじゃ戻…」
もぞもぞっとクマの着ぐるみを着た井本が動いた。




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文化祭 | 23:30:19 | Trackback(0) | Comments(0)
文化祭 2
僕は兎の縫いぐるみの頭部を膝に、
ほおづえを付きながら
後夜祭のことを考えた。
カップルが出来るとの噂に、女子が盛り上がっている後夜祭。
(今日告ると絶対結ばれるって…一点集中したらどうなるんだよ。
みんな結ばれて何角関係になるんだよ……)
なんて自分とは無関係なことを考えてみた。

戸がいきなりガラッと音をたてて開いた。
僕は兎のように飛び上がりそうになった。
「もぉー…おどかすなよ…」
「何、ビビッたの?だっせー…」
井本は僕をからかいながら、手に持っていた缶ジュースを
ひとつ分けてくれる。
「これ、担任から」
「へぇー太っ腹じゃん」
「お、鈴木たちだ」
井本は窓から校庭を見下ろしていて、手を振っている。
僕も立ち上がって窓の外を覗くと、
グランドの真ん中辺りで、
隣のクラスの女子数名が、こちらに向かって手を振っている。
「井本くん、かわいいー」
女子が声を揃えた。
井本はクマを被ったままだ。
だけど、これが僕だけだったら、
兎を被っていたとしても。「かわいいー」とは言われなかっただろうと思う。
それ以前に兎が誰かなんて、女子には興味もないだろう。

井本は普段から女子に人気があるのだ。
同い年で、背格好だって大差なく、
それほど顔が良い訳でもないのに、よくモテル。
「あとで3-C来てねぇー!」
懐っこく、ちゃっかり宣伝をすると
井本はしゃがみ込んで、壁にもたれた。
「俺ちょっと昼寝する…なんかえらく疲れちゃってさ」
「ああ判る、疲れたよなぁ…」
「なあ、15分ぐらいしたら起こしてくんない?」
「いいよ」
井本は明るいと寝られないからと言って、
縫いぐるみを被ったまま眠ってしまった。




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文化祭 | 22:15:14 | Trackback(0) | Comments(0)
文化祭 1
文化祭当日、僕たちのクラスは仮装喫茶を開いた。
女装する男子生徒、男装する女子生徒、おばけ、と多彩な顔ぶれの中
僕と親友の井本は、無難な所で兎と熊の着ぐるみを着ての参加だ。
喫茶は予想を遙かに上回る盛況ぶりで
僕らB班がようやく昼を摂れたのも、二時を過ぎてからだった。
昼食よりも遊びを優先して散っていった仲間を見送り、
着ぐるみ組であった僕と井本だけは、
暑さと息苦しさのためか疲れ切っていたので、
見物は諦め、静かな所でゆっくりしようということに自然話が決まった。

人気の無いところを求めて学校中を歩き回り、
ようやく辿り着いたのが、備品室。
平たく言うと、空き教室を利用した物置だ。
中に入ると、ずっと昔のバスケ部や野球部が貰ったトロフィーや盾、
どこかの外国から送られてきた意味不明の人形、
そうした処分する訳にもいかずに行き場を失ったらしきものが、
折りたたみ式の細長い机に所狭しと並べられていた。
僕らは委員に貰った菓子パンと牛乳を持って
出入り口からは死角になる所で、
壁に背を預け、直に床に座った。
「疲れたぁー…」
「このまま帰りてぇ~」
会話にすらならなかった。
この教室に入った途端気が抜けたのか、
更に疲れがドッと出て、
本当にもう何もしたくなかった。
その証拠にパンの袋を開けた辺りから
互いにひとっ言も喋らず、黙々と食べている。
だから紙パックの飲み物なんて、直ぐに飲み干してしまった。
「俺、何か飲み物買ってくるよ。お前何か飲む?」
「うん」
「じゃ、何でもいいだろ? ってゆーか選べないと思うから
適当に買ってくるわ」
「頼む」
井本が行ってしまうと、文化祭の最中だというのに
辺りはとても静まりかえっていた。
今が何時なのか、
さっきまで何していたのかさえ
現実感が乏しくなっている。
相当疲れているんだな。




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文化祭 | 22:08:20 | Trackback(0) | Comments(0)
スーパーマーケット 3 (3話とも推敲致しました 2/13付)
数週間前のニュースだ。
スーパーマーケットの駐車場で、
ホームレスの老女がバックしてきた車に
跳ねられ死亡している。
(あ、……このスーパーだったか?)
恐る恐る老女の姿を確認する。
良かった、今度はいない。

まだまだ気分は落ち着かないが、
車を走らせているうちに、恐怖も徐々に薄らいできた。
交差点で信号待ちになり、
ちょうど隣りまできたガソリンスタンドの料金表を見る。
(また上がってる…失敗したな、昨日のうちに入れとくんだった)
メーターを調べると、もう残り少ない。
(近所の買い物ぐらいだったら、今週中はギリギリいけるか?)
ミラーの角度を治そうと手を伸ばしかけ、だが
躊躇したまま手を引いた。
もしかミラーに映っていたら…
そう思うと怖かった。
帰路につくまで、私はバックミラーを見なかった。
荷物を取り出す時も、敢えて視線を下にして
後部座席は見ないようにする。
家へ慌てて入ってからは、照明をすべて点け、
テレビも音量を大きめにして、
なるべく老女のことは考えないように、直ぐさま料理に取りかかった。
野菜を洗い、包丁を手にした。
包丁も光っている。平の所に映りそうな気がして、
包丁もなるべく見ないようにした。

出来上がったカレーを前に、
独りでは食欲が湧かないことに気づく。
車で数分の所に住んでいる飲み仲間を電話で呼ぶことにする。
奴も給料前ということもあって、二つ返事で来ることになった。
手みやげの缶ビールと自家製野菜カレーで、
テレビを観ながら談笑していた。
「そういえばさ、庶務課の安藤さん、部長の愛人やってるって?」
「ホントかよォー…ちくしょー狙ってたんだよ俺…」
「何、お前も?」
「え…」
二人で顔を見合わせ、もう半ばやけくそみたいに高笑いをした。
「あー…でもあの人前から色々噂は絶えなかったよな」
「ああ、うん……火ィーある?」
笑いながら、奴はタバコを1本取り出し、俺に向かって手をしゃくった。
「ああ、あるよ」
俺は胸ポケットに入れていた、Zippoのライターを手渡す。
そしてビールを飲みながら奴が火を点けるのを見ていた。
Zippoライターの点火の仕方…いわゆる仕草に、俺はこだわりがあった。
奴は一丁前に手首を振り、ライターの蓋を開けて見せた。
銀に光るZippoライターはカチッと音を立て、だが火を点けるのに奴は2度失敗した。

俺は今日1日のむしゃくしゃを振り払うよう、
1度で点け…と点火に願を掛けた。
手首を振る。
蓋は小気味よい音を立てて開き、手首を戻す前にすかさずフリントホイールを回転させた。
点火!


最後に俺の心が見たものは、点火した火だったか、
それとも蓋に映っていた老女の顔だったろうか。
ぬるりと意識が身体を離れていくのが判った。
そして奴の声も……。
「おい、平井っ……平井ッ……」
大きくなるはずのない老女の顔が近づいた。
銀の蓋から離れたはずはないのに…。
そこで俺の精神は、人生ごと老女に呑み込まれてゆくのだった。
今俺の全身は悪寒という膜の繭になってしまったような状態だ。
それが端からは判らないらしかった。
俺は助けを求め続ける、老女の腕に抱かれながら。

平井武志27才…重度の意識障害より入院。




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スーパーマーケット | 23:24:01 | Trackback(0) | Comments(2)
スーパーマーケット 2
野菜とルーをカゴに入れ、肉売り場へと戻った。
さて何カレーにしようか、ここからが悩むところだ。
チキン、ポーク、ビーフ…
本来の好みはシーフードだが、
シーフードは日持ちしないから、
この3つのうちから選ぶ他ない。
そして日持ちを考えれば、
次に除外されるのがチキン。
となればポークかビーフ…。
(いや待てよ、挽肉という手もあるな…)
挽肉のパックを手にしたちょうどその時、
金縛りがきた…。
全身が、皮膚一枚も動かせない。
そして目の前の、商品棚の銀のプレートに
私の顔と、その真横に先程の老女の顔が映っていた。
身動きのできぬまま、自分の腕の辺りを見ると
その老女の手が絡んできていた。
「うわッ!」
俺はやっとの思いで声を振り絞るように出す。
そこで金縛りは解けた。
驚きのあまりパックを手からふり落とし、尚も叫んでしまっていた。
周りに居る主婦たちが、私をアブナイ者として見ている。
だが今はそれどころではない。
全身をもの凄い冷気が襲い、震えが止まらない。
言った所で信じて貰えそうにもない、
誰にも言えないこの恐怖が、俺だけに纏い付いているのだ。
俺はプレートのない菓子売り場の方へと向かった。
ここに長居するのも気が引けたが、
出口に近づくのが何より怖い。
すると程なくして
「どうなさいました?」と警備員に呼び止められた。
(は?)
どうもしないのだが、見れば警備員の後方数㍍先に
先程カートをぶつけそうになった親子が指を指している。
(はあ?)
「いや、どうもしませんよ」
「これ以上騒いだり、他のお客さんのご迷惑になるようでしたら
警察へも通報致しますので」
「いや、私は何もしていません」
一応否定はしたが、これ以上言い合いを続けてしまっては
かえって通報されそうな雲行きだったので、
俺は買い物途中ではあったがレジで精算した。
(何なんだ、あの親子は…)
肉売り場でも見ていたのか?
腹立たしさから、老女のことは忘れてしまっていた。
カートを元の場所へ戻し、
出入り口に差し掛かった所でようやく思い出す。




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スーパーマーケット | 23:22:30 | Trackback(0) | Comments(0)
スーパーマーケット 1
景気回復と言われていても
回復したなどと思えないのは私だけだろうか。
殊老人には厳しい世の中だ。
スーパーへ行けば1個100円のパンを、
買うか買うまいか人の目を気にしつつ右往左往し、
かなり長いこと居たにもかかわらず
結局何も買わずに出て行く年寄りの多いこと…。
彼らはあのパン1個で、いったい何日食いつなぐつもりなのだろう。

町中ではホームレスが増え続けている。
昼間の駅や公園といった目立った所では
警備員や警察官らに追いやられ
見掛けることは少ないが、
その分、大型古本店などで、
立ち読みをしながら暖をとっているホームレスをよく見掛ける。
お金を余らせている者。
お金どころか住居がなく仕事にすら就けない者。
恐らく互いに助け合えれば、
また違った何かが生まれてくるはずなのに、
そうは行かないのが人の世か。
先程もスーパーの出入り口付近で、
スーパーの買い物袋を沢山ひっさげた老女がいた。
明らかにホームレスである。
不衛生そうな身なりと、精神に異常を来していそうな顔付きに、
申し訳ないが、気持ち悪いとさえ思ってしまった。
(良くないな…。)

ここは極一般的なスーパーなのだが、
今日は一段と冷え込むせいか、
野菜売り場では鍋用の野菜が異常なほどの高値で売られ、
魚売り場では鱈が3切れで600円近くも値が上がっていた。
給料前ということもあり、財布の中身は冷え気味だ。
最低あと1回は飲み会にも行かざるを得ないから…と、
逆算して今日の予算を割り出す。
(となると…適当なモノでカレーを多めに作って
冷凍にでもしておくか…)
肉売り場に引き返そうとした時、
カートが、押してる方向とはまったく別の方向に
走っていってしまった。
あやうく幼児にぶつけそうになり、
悪意があってのことではないのに
その母親らしきに睨まれつつ、平に謝る。

タイヤの部分に埃と毛髪が絡み付いている。
これが原因だろう。
少し左右に振り、足でタイヤを踏みつけるようにして、
ゴミを出してやった。
俺は店員ではないのに…。




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スーパーマーケット | 23:20:42 | Trackback(0) | Comments(0)
冬の寒い朝
神社の一角で、
烏が弱っていた鳩を仕留めた。

足で押さえ、
嘴(くちばし)で
骸(むくろ)となった
鳩の羽を
毟り取ると
強風に煽られ、
羽は直ぐに
雪のように
飛んでいった。


その夜、
私の運転していた
車の
フロントガラスには
烏が羽を広げたような
真っ黒な空から、
鳩の羽のような
雪が
舞い降りてきた。




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夢路(short-short) | 12:31:40 | Trackback(0) | Comments(3)
少女の頃に聞いた、
荘子の「蝶の夢」の話。 
あれは確か、
荘子が蝶になった夢を見て目覚めた時に、
もしやこの今こそが、
蝶が荘子となる夢を見ているのでは…
と考える話だったか。

私は生理的に虫が大の苦手で、
絵で見るのすら駄目、
名前を聞くだけで鳥肌が立ち、
その嫌悪感は生活に支障を来すほどだった。

それなのに、
今私は蝶に生まれ変わってしまっている。

いざ自分が蝶になると、
この身体が
いかに綺麗であったか、
そしていかに性能の良いデザインであったかが
分かる。

風を受けて舞い上がる時の
私の優雅な様を見て欲しい。
たっぷりの鱗粉をまぶした羽は、
私たちの誇りである。
飛んで鱗粉をまき散らす時、
それこそ
自分が妖精にでもなった気がする。
毎日、
私は感嘆の声を上げながら
飛び回っている。
仲間からは失笑を買っているが…。
花に舞い降り、
閉じた大きな羽の鱗羽も、
とても繊細で、尚かつ複雑な彩色が
天から施されているのだ。
私の黒地に鮮やかな黄色い模様は、
どの花たちも酔いしれるほどの美しさ。
今私は、まさに宙を舞う芸術なのだ。

人だった頃
何故あんなにも
この身体を厭うていたのか
今となっては
不思議でならない。
永遠にこの身体へ宿っていたいと、
神がいるのなら、真剣に祈りたいのに…。


それでもやがて秋が来た。
美しかった私の羽は、
いつの間にか擦り切れて、
いよいよ天に召される時が近づいているのを
感じている。
こんなにも美しい蝶に生まれ変わったのだ
次こそは
さぞや美しい天国へ行けるのだろうと、
私は寒さに打ち震えながらも
夢をみる。


私は蝶のサナギ。
仲間の半数以上が
冬を待たずして息絶えた。
生き物は
虫でいる間だけ、前世の記憶が残っている。
だが一度動物になってしまうと
私たちですら
その記憶の一切は奪われるのだ。

ほら、
今こちらに近づいて来る
あの男だって
前世は蝶だった。
誰よりも蝶であることを
喜び、
よく飛び回る、
それはそれは美しい大きなアフリカキアゲハだった。

「おぃ…これっ…!」
「こっ…これは………。
サナギで見つかるなんて、なんてラッキーなんだ」
男たちは肩から鞄を降ろし、
私がつかまっている植物の側で
何やら荷を解き始める。
私には分かった。
この男は、あまりにも蝶の姿を愛するあまり
蝶のコレクターになってしまったのだった。
私は数分と経たないうちに、
捕獲されてしまうのだろう。

記憶を失うとは難儀なことだ。
私こそが、
この男が蝶であった時の、
母であるのに…。
よもやかつての息子の手によって、
命尽きるとは、何たる不運。

否、こうなることは
前から分かっていたことかも知れない。

息子は蝶になる前も
蝶になってからも、
そしてまた人間になってからも
形ある物しか愛さない性質であるところが
変わっていない。

形はそれこそ多種多様に変化するが、
形無いものは、永遠である。
そのことに息子自身、
あと幾つ流転すれば
気付くのであろうか。




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夢路(short-short) | 23:08:27 | Trackback(0) | Comments(2)
福袋
大晦日、夫は仕事で出掛けている。
高木家のリビングで依子は、独り暇つぶしにテレビを点けていた。

「都内××デパートの今年の福袋目玉商品は、なんと、
サン様と豪華ディナークルーズデート券ですよ。
いよいよ明日ですねー」
「おばさま方が殺到しそうですね」
「そうなんですよ。
常識で言ったら50万、100万って物凄い高値が付きそうなんですが、
今回はなんと、サン様のたっての希望ということで、
5万円の福袋でくじ引き、という事らしいですよ」
「そう、その5万円の福袋、
ハズレでも商品は10万円相当の商品が入っているそうで、
しかも販売数が他の福袋の倍用意されていて、
売り上げの5%は寄附に当てられるっていうんですから、あなた」
「さすがサン様ですねー」


「ふん、何がさすがサン様よ…売れなくなってきたってことでしょーが」
依子は鼻息をひとつ吐いて、蜜柑の皮を剥き出した。
『たのむから××デパートの福袋だけは買うなよ?!
いいか? 5万円の奴だからな。あれだけは何があっても絶対買うなよ』
夫は出際に依子に念を押した。
「ハイそうですかって、直ぐに引き下がるような依子さんじゃありませんよっと」
仕事が開けてからは飲み会だと言っていた夫の言葉を思い出した。
つまり夫の帰りは、どう見繕ったところで明日の昼過ぎになるだろうことを、
時計を見ながら確信した。
「えっらそーに…こうなったら、買いに行ってテレビに映ってやる!」
ここの所夫の浮気が原因で夫婦喧嘩をしていた依子は、
浮気をした分際で頭ごなしに人に命令するなど、言語道断!とばかりに、
友人の千佳に早速電話し、明日朝イチで向かうことにした。

デパートの前では割合早くに整理券が配られた。

整理券にくじ引き券とは、
落ち目のタレントの癖になんとも仰々しいものだと、依子は内心舌を出した。
「ねぇ、でもホントに来て良かったの?」
「いいのよ~、どうせバレないんだから」
「でもねぇ…」
「さ、行くわよ」
数十人単位で分けられ、順次入店してゆく。
いよいよ依子たちの番になった。

入店をいくら整理しても、まだ買い漁っている客が残っているから、
結局中は、たいへんな混雑である。
しかもテレビの取材も入っていた。
「ねー…どの辺狙う?」
「テキトーよ、テキトーとにかく掴め!」

千佳は3袋、依子は2袋ゲットした。
あとはくじ引き券を確認するだけだ。


「……当たった……」
依子が小声で呟いた。
「嘘っ…」
千佳は呆然としている依子の代わりに手元のチケットを確認した。
やはり当たっている。1等、サン様と豪華ディナークルーズデートが。
2人の顔色は急速に青褪めていった。

「この人当たったんだってよー」
「え。どこっ、どの人…」
ふたりの微かなつぶやきに、まわりの主婦たちが直ぐに反応した。
最早逃げ場はない。
「依子……」
同情一杯の千佳の声も届かぬまま
依子は、見知らぬ主婦やデパートの店員らに誘導されて
あれよあれよという間に、特設ステージへと押し上げられる。
「おめでとうございます、1等サン様と豪華ディナークルーズデートです」
キャーとかイヤーとか、主婦等の黄色い声が飛び交う中、
異常に明るいテレビ取材用のライトを浴びた依子は、
ひとり困惑していた。

『いいか? 5万円の奴だからな。あれだけは何があっても絶対買うなよ』
夫の言葉を思い出していた。
(買った……当たっちゃったよ……どうしよう賢ちゃん……)

マイクを持った進行役の男が依子に向かって、話し出す。
「それではお客様、
個人情報ですのでお名前の発表はご本人さまのご意志にお任せいたしますが、
まずは身分証明となるようなもの、お持ちですか?」
依子は言われるまま免許証を差し出した。
「失礼して拝見させて頂きますね。
えーっと…高木さん…高木さん、偶然ですねー、サン様と同性じゃないですか。
あ、今私言っちゃいましたね…スミマセン~。
でも、おめでたい事ですし良いですよね。
スミマセン~…興奮し過ぎてミスっちゃいましたァ」
場内大爆笑、白けた依子ただ1人を残して。

(そうですよ、私は高木依子ですよ。
しかも夫は高木賢三って言いますゥ~!)
依子は心の中で叫んでいた。

サン様こと高木賢三は、
最後の独身イケメン俳優と言われているが、
実は極秘結婚しているのだった。その相手が依子である。

夫婦喧嘩中の依子は、想像してみた。
夫と赤の他人の振りをしながら
マスコミの前で、
さも嬉しそうに恥じらいながら
豪華ディナークルーズデートをする自分を……。
(もう、サイアク~…!)

今回ばかりは、夫の言うことを聞かなかった事に、
後悔しきりの依子であった。




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夢路(short-short) | 07:25:43 | Trackback(0) | Comments(3)
上履き
中三の夏休みが始まる前、
突然、親友の美菜が入院した。

小学生の頃は、幾度か入退院を繰り返していた彼女だったが、
ここ数年身体に不調があるなどとは全く聞いていなかったので、
正直私は驚いた。

「どーしよー…私受験ヤバイよぉ」
「大丈夫だって、いざとなったら何処でも良いじゃん。
私も同じトコ受けるし、勉強は高校行ってから二人で頑張るってことで、
大学受験で勝負しようよっ」
「ホントォー? 同じトコかぁ…楽しいだろうなー。 
でも沙耶は頭良いもん、やっぱりダメ、同じトコは無理だよぉ…」
「大丈夫、絶対一緒のトコに行くから」
何処へ行っても二人は一緒。
病室のベッドに寝かされている彼女を前にしても、
私たちは、どちらかの部屋に来て話しているようなつもりでいた。


どうしてこうも中3という時間は早く過ぎてしまうのか。
数週間はあっという間で、今日は1学期の終業式だ。
3-2の下駄箱に、美菜の上履きが残っている。
持って行ってあげようかとも思ったが、
美菜の家は父子家庭、
持っていったら、かえっておじさんの負担になるかも…。
私が代わりに持って帰って洗ってあげてもいいけど、
もしかおじさんが取りに来たら……。
そう考えているうちに、そこで思考は止まってしまった。


夏休みの間は、あまり見舞いに行けなかった。
受験生だからだ。
塾のスケジュールはハードだったし、
何より担任から、
美菜の病気は死ぬようなものじゃないのだから、
自分の勉強を第一に考え、
せめて見舞いは2週間に1回ぐらいになさいと、
釘を刺された。
母の監視の目もあった。

それでもなんとか時間を作って見舞いに行くと、
美菜は嬉しそうに病棟を走り回り、
待合い室の片隅で、一緒に缶ジュースを飲み、
私たちは美菜が片思いしている彼の近況や好きなアイドルの話をした。
美菜は元気だった。


新学期が始まった。
美菜の上履きは、結局あのままだった。
やっぱり私が洗ってあげるんだったと後悔しながら、
ふとあんなに元気なのに
何故退院できないのだろうことに疑問をもった。
だが2学期になると
進学校で有名な私たちの中学は、
1学期とは比べものにならないぐらい
受験一色になってゆく。
いつしか私の頭の中からも、美菜の病気のことは薄れていった。


十月にもなると、
朝から皆疲れた顔をしていた。
口を開いても、
お互い探りを入れるような会話ばかり。
こんな時、美菜がいてくれたら…と、
親友という、今空席になっている心の隙間を
私は3階の踊り場から、窓の外を眺め寂しく思った。
ここは見晴らしがいい。
学校の正門から住宅街を真っ直ぐに走る道路が、
なお視界を広げている。
視線の先に、一本だけ唐突に伸びている杉の木があった。
あそこはちょうど美菜の通学路にあたる所だ。
後少しでHRが始まる。
それでも教室に戻る気にはなれないでいると、
じわじわと上がってきていた気温が、
一瞬すうっと和らいだ。
風が窓から入り込んできていた。
「あ…」
杉の木を見ていて、私は分かった。

「2組の中川美菜が死んだってー」
割れそうな大声で誰かが叫んでいる。
それも、あたかも珍獣でも見つけたかのような
大はしゃぎの声音だ。
下の階からだった。
私は急いで階段を駆け下りた。
声が近づく。
その声の主は騒ぎながら階段を上ってきて、
私の目の前を通り過ぎようとした。
同じクラスになったことはないが、学年は一緒の女子だった。
私はその子の腕を咄嗟に掴んだ。
「何嘘ついてるのよ!」
分かっているのに、私は否定したかった。
その子に向けている感情が、八つ当たりだということも頭では充分理解している。
「ホントだって。嘘だと思うなら職員室に行ってみなよ。
黒板に書いてあるからっ!」
私はまた走り出した。
乱暴に職員室の扉を開けると、黒板の文字を確認した。


葬式が終わって、数週間もすると、
誰も美菜の話をしなくなった。
なのに下駄箱には、まだ美菜の上履きがある。
私は毎朝、上履きを確認してから教室へ向かう。

担任はおじさんに、遺物を渡さなかったのかな。
上履きだけ忘れてしまっていたのかな。
だいたい掃除当番のコだって、なんで担任に言わないのだろう……。
まあ良い、上履きだけでも残っていれば
まだ美菜が側にいてくれているような気がする。
帰りがけ、私はひと目を忍んで上履きを撫でてゆく。

『お母さんが死んだのって、私が小三の時の×月×日なんだけど。
私、お母さんがいつも側にいるのが分かるんだ。
変なこと言ってるって思う?

誰も信じてくれないんだけど、
あれから毎月×日になるとね、肩が重くなるの。
お母さんが手を置いてくれてるんだって思うんだ。
だからちっとも寂しくないの。
沙耶って、そういった不思議な経験ある?』




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夢路(short-short) | 06:06:14 | Trackback(0) | Comments(4)

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