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shio

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趣味:事典集め
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文化祭 4
僕が向き直ると、井本は身体のコリを解すようにしながら、立ち上がった。
「大丈夫? 井本って寝起き悪かったんだな」
「ん…ああ」
(え…?)
僕はクマこそが井本でないことを知った。
「誰?」
するとクマは
「何言ってんだよ田中、今度はお前が寝ぼけたか?」
「ふざけるなよ、お前…誰?」
「井本だよ…」
「なら、頭取ってみろよ」
「ああ」
クマは頭を外した。
クマの言うように、やはり間違いなく井本だった。井本の顔だ。
「ほら時間ないんだろ、行くぞ」
井本が話す。
けれど…
「井本じゃない!」
「そうだよ、だから俺はこっちだって」
(え?)
忘れていた……剥製のイタチのことを。
「井本…?」
「だからさっきから俺だって言ってるじゃん」
「え…こっち(井本の顔をした方)が井本じゃなくって、こっち(イタチの剥製)が井本?」
「そーだよ」
イタチの剥製は言う。
「じゃあ俺は誰だっていうんだよ」
井本の顔をしたクマがいう。
「井本…?」
「ちがーう、俺はこっちッ」
イタチの剥製が叫ぶ。
僕は正直どちらもが気持ち悪い。
どちらとも一緒にいたくない。
だからつい言ってしまった。
「どっちもいやだ…」
するとふたりほぼ同時に叫んだ。
「なに馬鹿言ってるんだよ」
「馬鹿ってなんだよ…クマの着ぐるみとイタチの剥製って…気持ち悪すぎだろ…」
「おい、おれは着ぐるみじゃないぞ、頭外してるだろ」
「だけど…着ぐるみきてる間におかしくなったんじゃないか…」
僕はもう半ベソ気味だ。
「ほ〜ら判ってるじゃないか。だから途中から俺じゃなくなってるんだって」
「でも…、だったら……なんで、どうして?」
「知るかよ…。俺だって教えて欲しいよ。寝てたら、いつの間にかこうなってたんだ」
「田中、早く行くぞ…そんな誰かが仕掛けたイタチの剥製と話してたら、お前アブナイ奴と間違われるぞ」
「やっぱり仕掛け?」
「当たり前だろ…」
「ま、待て田中…じゃあ、じゃあ今の井本見て変だと思ったのは何故なんだ…よく考えろ、
違うって思ってんだろ?」
「そうだった…」
思わず洗脳されそうになった。アブナイアブナイ…。
「剥製は仕掛けなんだって。だってそうだろ、そう考えた方が常識的ってもんじゃないのか?」
クマが言う。
「うん…でも……」
僕は疑いの目でクマを見つつ、やはりイタチも気になる。
「そんなに疑うんなら、只の剥製なんだから分解でも何でもしてみろよ」
クマが言うまでもなく、僕は剥製の中身に興味があった。
否、綿とか何とかの中身じゃなく……。
僕がイタチを持ち上げると
「や、止めろよ…田中ッ早まるな…俺がどうなっても…お前構わないのか…」
「だって…剥製だもん……」
「剥製でも何でも俺が入ってるっつってんだろ」
「だって…」
「いいか、良く聞け田中……もしかお前が剥製を解体してだな、その結果俺が消滅したら
これからお前は誰に庇って貰うんだ?
イジメが無くなったとは思うなよ……今だって俺が目を光らせているから…」
「…………解ってるよ………そんなこと、言われなくたって解ってるよっ」


つづく




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文化祭 | 23:39:11 | Trackback(0) | Comments(4)
文化祭 3
また静寂がやってきた。
パンも食べてしまったし、ジュースも飲んでしまった。
井本が寝てしまうと、15分は結構長い。
僕もかなり眠かったのだが、ふたりで熟睡してしまったら
起きられなくなりそうなので我慢することにした。
仕方がないので暇つぶしに、飾ってある物を順に見て回る。
(すげー…この年って男バス強かったんだな……)
ぎゅうぎゅうにひとっ固まりに飾られた楯やトロフィーが、
皆同じ年度なのに感心した。
「…田中っ、田中ってば」
僕は井本を振り返った。
「何? 井本…」
「俺、これどうなってんの?」
「何が?」
「だからなんで俺こんな中に入っちゃってんだよ」
「なんでって……井本、もしかして寝ぼけてる? 僕ら今日は仮装喫茶をやってるんだろ」
「そうじゃないよ、そっちじゃない。こっちだって…こっち…」
「はぁ?」
「俺が入ってるのは熊じゃない」
「何言ってんだよクマだよ。あー…もうこんなに寝起きが悪いなんて知らなかったよ。
ほら…起きろよ井本…何寝ぼけてるんだよ…」
僕はクマの頭の部分を外そうとした。
だが何処かが引っかかってるのか、うまく外してやれない。
「だ・か・らー…そっちじゃないのッ」
「え…」
声が反対方向から聞こえる。
クマを被った井本ではなく、今僕の背中の方から…。
だが振り返るとあるのは、イタチらしき剥製。
「そう、今お前が見てるのがオ・レ」
「ええっ?」
「なーどうなってんの?」
「どうなってるって…こっちこそ、この中どうなってるの? いつ仕掛けたんだよ?」
「だから仕掛けじゃないって……あッ…乱暴に扱うなよ。壊れたらどうするんだ」
「大丈夫、でも凄いなー…こんな小さな中に入るようなスピーカーって、売ってるんだ…」
「違うスピーカーじゃない、俺が入ってるの」
「いい加減にしなよ。それより僕らもそろそろ教室戻らないと」
「だから、このままじゃ戻…」
もぞもぞっとクマの着ぐるみを着た井本が動いた。




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文化祭 | 23:30:19 | Trackback(0) | Comments(0)
文化祭 2
僕は兎の縫いぐるみの頭部を膝に、
ほおづえを付きながら
後夜祭のことを考えた。
カップルが出来るとの噂に、女子が盛り上がっている後夜祭。
(今日告ると絶対結ばれるって…一点集中したらどうなるんだよ。
みんな結ばれて何角関係になるんだよ……)
なんて自分とは無関係なことを考えてみた。

戸がいきなりガラッと音をたてて開いた。
僕は兎のように飛び上がりそうになった。
「もぉー…おどかすなよ…」
「何、ビビッたの?だっせー…」
井本は僕をからかいながら、手に持っていた缶ジュースを
ひとつ分けてくれる。
「これ、担任から」
「へぇー太っ腹じゃん」
「お、鈴木たちだ」
井本は窓から校庭を見下ろしていて、手を振っている。
僕も立ち上がって窓の外を覗くと、
グランドの真ん中辺りで、
隣のクラスの女子数名が、こちらに向かって手を振っている。
「井本くん、かわいいー」
女子が声を揃えた。
井本はクマを被ったままだ。
だけど、これが僕だけだったら、
兎を被っていたとしても。「かわいいー」とは言われなかっただろうと思う。
それ以前に兎が誰かなんて、女子には興味もないだろう。

井本は普段から女子に人気があるのだ。
同い年で、背格好だって大差なく、
それほど顔が良い訳でもないのに、よくモテル。
「あとで3−C来てねぇー!」
懐っこく、ちゃっかり宣伝をすると
井本はしゃがみ込んで、壁にもたれた。
「俺ちょっと昼寝する…なんかえらく疲れちゃってさ」
「ああ判る、疲れたよなぁ…」
「なあ、15分ぐらいしたら起こしてくんない?」
「いいよ」
井本は明るいと寝られないからと言って、
縫いぐるみを被ったまま眠ってしまった。




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文化祭 | 22:15:14 | Trackback(0) | Comments(0)
文化祭 1
文化祭当日、僕たちのクラスは仮装喫茶を開いた。
女装する男子生徒、男装する女子生徒、おばけ、と多彩な顔ぶれの中
僕と親友の井本は、無難な所で兎と熊の着ぐるみを着ての参加だ。
喫茶は予想を遙かに上回る盛況ぶりで
僕らB班がようやく昼を摂れたのも、二時を過ぎてからだった。
昼食よりも遊びを優先して散っていった仲間を見送り、
着ぐるみ組であった僕と井本だけは、
暑さと息苦しさのためか疲れ切っていたので、
見物は諦め、静かな所でゆっくりしようということに自然話が決まった。

人気の無いところを求めて学校中を歩き回り、
ようやく辿り着いたのが、備品室。
平たく言うと、空き教室を利用した物置だ。
中に入ると、ずっと昔のバスケ部や野球部が貰ったトロフィーや盾、
どこかの外国から送られてきた意味不明の人形、
そうした処分する訳にもいかずに行き場を失ったらしきものが、
折りたたみ式の細長い机に所狭しと並べられていた。
僕らは委員に貰った菓子パンと牛乳を持って
出入り口からは死角になる所で、
壁に背を預け、直に床に座った。
「疲れたぁー…」
「このまま帰りてぇ〜」
会話にすらならなかった。
この教室に入った途端気が抜けたのか、
更に疲れがドッと出て、
本当にもう何もしたくなかった。
その証拠にパンの袋を開けた辺りから
互いにひとっ言も喋らず、黙々と食べている。
だから紙パックの飲み物なんて、直ぐに飲み干してしまった。
「俺、何か飲み物買ってくるよ。お前何か飲む?」
「うん」
「じゃ、何でもいいだろ? ってゆーか選べないと思うから
適当に買ってくるわ」
「頼む」
井本が行ってしまうと、文化祭の最中だというのに
辺りはとても静まりかえっていた。
今が何時なのか、
さっきまで何していたのかさえ
現実感が乏しくなっている。
相当疲れているんだな。




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文化祭 | 22:08:20 | Trackback(0) | Comments(0)