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文化祭 5
酷いよ井本…僕は忘れたかったんだ。
そりゃあ頭の何処かでは解ってたよ。
今だってイジメにあいそうな気配があるってことぐらいさ。
だって女子がいまだに僕のこと見て、クスクス笑う時があるもん。
春紀じゃなくって、ハルミちゃんて呼ばれるのだって結局治らない。
……悲しくなってきた。
やたらめったら理不尽に悲しい。
みんな僕のことをオカマっていうけど、
僕はオカマじゃない。
女の子のことだって普通に好きだ。
なのに何だってこんな惨めったらしい気持ちにさせられなきゃならないんだ。
キレたくなったって、体格が女子よりも細いから我慢してるし…。

するとイタチが、
「田中……悲しんでいる所悪いんだが、その前に俺を助けろ!」
「………」
するとクマも、
「田中、もう気が済んだろ……そんな話をするってこと自体、間違いなく、からかわれてるんだって。
早く教室戻って、スピーカー仕込んだ犯人を探した方が良くないか?」
僕は今解った、どちらが本物の井本なのかが。

この横柄な物言い…! そう、それが井本だ。
この勝手な態度… そう、それこそが井本なんだ。
理屈じゃない、もうこの際常識なんて関係ないだろう。
僕はなるべく鬼のような顔付きをしてから振り返った。

「………クマッ…お前、中身はいったい誰なんだよ?」
「田中…? お前とうとう頭にキたか…?」
「誰だって聞いてるんだッ、答えろッ!」
「何言ってるんだよ…」
「お前は井本じゃない! 井本はこっちだ!」
僕は力いっぱい、イタチの剥製を指さす。
するとクマは慌てだした。
「………待ってろ、今誰か呼んでくるから。いいか、そこを動くなよ…」

クマを見送っていると、井本はイタチのくせに酷く真面目な声音で話し出す。
僕は咄嗟に笑いそうになったが、自体は意外と深刻。
だから笑いは堪えなくてはならない。
「おい、田中…このままだとヤバイぞ」
「うん……どうしよう……」
「まったくよォ…せめてイタチに入るのがお前の方だったら楽だったのにな…」
「え、それどういう意味?!」
「いや、まあ…聞き流せ。それよりも、とにかく俺を連れて今すぐここから逃げろ」
「逃げるって、何処へ?」
「そんなの判んねーよ」
「困るよぉ…判んなきゃ何処へも行けないじゃない…」
「おい、お姉言葉になってきたぞ」
「!……知らないよぉ〜もぉ〜…」

僕は兎の頭を被って、イタチを抱きかかえた。
頭を被った方が、文化祭らしくてみんなに不審がられないだろうとの、
井本のアドバイスだ。
廊下を走る。
「何あれ…兎がイタチ持ってる」
皆が僕を笑っている…。
「ほら、手を振れ!」
「え?」
「良いから手を振ってみろって」
僕は廊下にいた女子たちに手を振った。すると
ピンク色した歓声が上がった。
キャーとかカワイイ〜とか言った類のだ。
見えないだろうけど、僕は走りながら兎の中で思いっきり赤面している。
「かわいい」という言葉を聞いて、
怒りじゃなくて、生まれて初めて喜んでいる自分が不思議だった。
いつもなら、からかわれているとしか感じない言葉が
どうして今は褒め言葉に聞こえるのだろう。
今僕は田中じゃなくって兎だからだろうか?
「気持ち良いだろ」
「う、うん…」
走りながら、というか逃げながら、
自体はあまり悦ばしい状況ではないけれど、
そんな時に、僕は素敵な思い出も作れてしまったようだ。

つづく




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文化祭 | 14:34:44 | Trackback(0) | Comments(13)