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黒の館
激しい音がする。

黒い闇の彼方
北の山から吹き下ろす風が
屋敷全体を叩き、揺さぶる音だ。

犬は吠え、
猫は姿を隠し

そして女は
白いネグリジェ姿で
鏡に向かっていた。

予告なしの
慟哭のような雷(いかずち)が
時折闇を引き裂いては、
女の思考をも 真っ二つに切り離していった。

女は手に持っていた手鏡を
ドレッサーの上に置くと、
飼い猫の姿を探し出した。
主を呼ぶ哀れったらしい鳴き声が、
今も耳に届いている。

閉めたはずのドアが、僅かに開くと、
ビロードのような光沢のある黒毛が、滑るように入り込み、
ガラスのように透過して光る青い瞳が、
こちらを見ていることが分かった。

猫はペットというよりも、豹に似ていた。
一直線に女へと向かって歩く姿が、
酷く美しい。

女が優しく舞うような仕草で手を差し伸べると、
猫はそれに応え、
尻尾を女の足下に絡めながら
ゆっくりと、勿体をつけ女の周りを半周回った。


ひと際耳をつんざく雷鳴が
森を、山を、村全体を脅かした。

今のは、
何かが割れたような音…、
いや、何かを引き裂いたような音?
凄まじい爆音だった。
直ぐ近くの樹木にでも落ちたのだろう。
地響きすら生じている。

一瞬だが、女は辺りが無音になったと感じていた。
あまりの音量に聴覚が麻痺したのである。
それが証拠に、
火が点いたように吠えまくる犬どもの声が、
まだ止まぬ雷の音が、
初め膜が張ったように霞んで聞こえていたのが、
やがて崩壊したダムの如く、
勢いよく耳の奥へと雪崩れ込んできたのだった。

女は不安そうに窓の外に目をやった。

落雷の音が窓ガラスを不気味に震動させながら、
気が遠くなりそうなほど長く響き渡る中、
その響きが完全には消えぬうちに、
また直ぐ次の雷が光を放っている。
ドレッサーの上に置いた手鏡は、
それらを隈無く映していて、
反射した光のひとつが女の目を射った。

女は目を眇めて、
手鏡を裏返しに掛かる。

祖母から譲り受けた、燻し銀の重たい手鏡は、
裏返すと、
マーマン(半人半魚)と少女の姿が、
重厚な、ややもするとおぞまし気な意匠で
装飾されていた。

女はそれを幼子のような手で塞いだ。
第一関節にすら深い皺のない、
一見蝋人形のような、
しっとりとした透明感をもった手。
昼間は読書と絵画とピアノとダンス、
それと一般教養を嗜むだけの、
暮らし向きという意味では、一切の苦労を知らない彼女は、
手が物語っているように、内面もまた少女のままだ。

マーマンと少女のゴツゴツとした装飾部を掌で塞ぎ、
女は、今は亡き祖母の温かな思い出に触れ始めていた。

女の家族は10年前には粗方亡くなっていた。
流行病だった。
全身の肌が呪いにかかったように黒くなり、
当時村の者はこの館を恐れ、
家族の遺品はその頃にすべて焼かれてしまい、
もう殆ど残っていない。
それでも去年までは後見人である伯父の家にいたから、
寂しさを紛らすことができた。
この春館に戻ってきたことで、
初めて自分が本当に独りになってしまったことを
実感したのだった。

繰り返し繰り返し女は手鏡を撫でた。
祖母がマーマンの作り話を話して聞かせてくれたあの日が、
夢のように、女の心を包み込んでくれる。
傍らで鳴く猫の声が、構って貰いた気に一層尾をひいていたが、
女は一時の安らぎに浸る方を選んだ。

胸の中すら暖まるような、祖母が自分の名を呼ぶ声が甦った。
お転婆遊びをすると決まって巻き毛を整えてくれた、ふっくらとした掌の温もりも。
抱きしめられた時には、いつも春風のように優しくそこにあった香り…。
もう皆いないのだけれど、
こうして思い出す間だけは、確かに皆ここにいる。
マーマンが何だと言っていただろうか…
祖母があまりにも神妙な顔をして見せるのが、子供心にやけに可笑しく、
笑っていたことを思い出した。
女の手に、大きな掌が重ねられた。
若い男のものだった。
色白で血管が透けて見える、大きくて肉厚な掌。
女はその片手に両手を収められてしまうと、
身体が竦み上がり、
男の、しっかりとした太さのある、長い指先を凝視するだけで
精一杯となった。
そこへ顔を近づけられ、更に怯えが走った。

脳裏に一枚の古い絵画が浮かぶ。

ホール正面、
階段の踊り場付近に今も飾られている
この館の何代目かの当主の肖像画に、
男は酷似していた。

肖像画の中で、男の脇に置いてあったサロンテーブルに、
今自分が手にしている燻し銀の手鏡が置いてはいなかったか。
そしてあの絵にも黒猫が描かれていたが、
これまた今自分が飼っている猫と似ている気がした。
若い当主の肖像画としては、
手鏡も猫も不釣り合いだと、見る度に思っていたのが
今頭のどこかで納得し始めた。


男の手が女の頬に掛かった。
振り払おうとする女を制して、
真っ直ぐに眼を向けるよう促す。

女は全身の血が沸騰してしまいそうな
眩惑と恐怖と微かに芽生える情欲の直中で、
嵐に怯える野鳩のように震えた。

男の目が放つ光が強くなる。
女は鳥肌をたてながら、それを見た。
男の瞳に映る自分を見た。

薔薇色の、形がよく整って引き締まった男の唇が動いた。
声はない。
でも確かに言っている。
女へ、
「come with me…」と。




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夢路(short-short) | 23:30:19 | Trackback(0) | Comments(0)
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